「もう少しで西の都に着きますね」 トリピタカの声がいつもより少し弾んでいるのに気付いたサスケは、小さな体を跳ね上げるようにしてその顔を覗き込んだ。 「なんでぇ!やけにご機嫌っぽいじゃねぇか、お師匠さん!」 「そうですか?」 そんなサスケの問いに、いつものように素っ気無く答えるトリピタカ。 だが、その目元は確かにいつもより柔らかいのは、頭巾越しにもハッキリと見て取れた。 (懐かしいわ。ここは変わらない。あの魔法大戦を経てもなお・・・・)
『郷愁の念にでも駆られましたか?』
ぞくり、とする声がした。頭の中の不快を感じる部分に直接響いてくるような。 トリピタカ一行の進む先に、いつの間にか一人の男が立ちはだかっていた。 鍔付きの帽子を目深に被った、闇よりもなお暗い漆黒の身体。そこから漂う気配は、 背筋が凍りつくほどの異様な緊張感に満ち溢れていた。 いつもは血気盛んなサスケも、あまり感情を表に出さないセイレーンも、 何を考えているのかわからないトリオ・ザ・ボアーも・・・ただならぬその気配に狼狽を隠せずにいた。 『正体を隠し、気配を消し。周到でしたね、西の魔女"の娘"』 全く表情を感じ取れない帽子の奥の顔。そこから発しているとは思えないほどハッキリとした声が一同の耳へと届いていた。 「気をつけなさい、皆。この気配は・・・」 言いかけて、その言葉を飲み込むトリピタカ。それはもはや居るはずがない存在。 あの魔法大戦の後、姿を消したはずの存在。何故、今頃になって。 『今はまだ』 再び、男の声が響いてきた。 『会わせるわけにはいきませんよ』 男の声を振り払うように、トリピタカは手にした杓杖を頭上で一回転させた後、その柄尻を強く地面へと打ちつけた。 次の瞬間、全身が眩い光に包まれ・・・彼女は本来の姿である「西の魔女」スノウホワイトへとその姿を変えていた。
それを合図として、我に返ったようにスノウの脇を固めながら身構える一行。 動じた様子の無いまま、男は無言で手にした笛をゆっくりと口元へ運んだ。 なんとも言えない、妖しく、深い、深淵よりもなお深い音色が鳴り響き、そして辺りを包み込んでいった・・・・。