武闘大会で賑わう王城の遥か西方に、丘陵に高く聳え立つ古城があった。
そこに住むのは稀代の召喚魔術士、スノウホワイト。
雪のように白い肌、血のように赤い唇、黒檀のように黒い髪を持つという。
その美貌と実力は隣国の果てまで轟くほど名高く、
東方の剣豪や南方の聖女と並んで『西の魔女』と呼ばれることも多かった。
そして、今。稀代の召喚魔術士は目の前の惨状にただひたすら頭を抱えていた。
食材および研究材料の調達へとお使いに出したきり、いつまで経っても帰って来ないメイドにしびれを切らし、
代わりに呼び出した下位精霊7人組。
『ハイハイホーッ!!まかせてまかせて!!何でもやるよ!!!』
炎の精霊の手で焼かれた芋(最後の食料)は黒焦げになり、水の精霊の雑巾がけした廊下は水浸し。
風の精霊の洗濯乾燥によってお気に入りの下着が大空高くに消えていった時は、
流石にしばらくの間声も出せずにその軌道を目で追うしか出来なかった。
「・・・我慢の限界だわ」
深い溜息と共に(木の精霊の入れた大量の葉が溢れる)ティーカップをテーブルに置こうとした瞬間、
突然彼女の全身に電流のような鋭い衝撃が走った。
どこか。どこか遠くで。何か。そう、何か大きな。大きな災いの胎動が・・・
好き勝手に暴れていた7人の精霊も、一斉に彼女の顔を見て、そして一斉に大きく頷くいた。
彼等にも伝わったのだろう、世界が綻び始めたということが。
「ちょっとだけ長い旅になりそうね」
決意の表情で少し遠くを眺めた後、思い出したように彼女は置手紙を書き始めた。
城にようやく帰り着いたメイドのグレーテルがその手紙を読んで震え上がるのは、また別のお話。
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