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女王の放つ鎖付きギロチンの刃が頬の横をかすめ、
ドロシーは慌てて後方に大きく飛びずさった。
(クソッ・・身体の反応が鈍い・・!)
決勝戦を闘い終えて間もない彼女の身体には、
確実に疲労とダメージが蓄積されており、
それが彼女の身体に大きな負担を与えていた。
「アナタ、やっぱり素晴らしいワ」
肩で息をするドロシーを見つめ、
甘ったるい陶酔しきったような声で女王は言った。
「でも、その力は私と"彼"のものよ」
ゆっくりとした振り子運動を続けていたギロチンが、
鎌首を擡げた大蛇の如くドロシー目掛けて襲い掛かる。
(来るッ!?)
ドロシーの反応が一瞬遅れ、肩膝を突いた彼女の
腹部目掛けて凶刃が唸る!

ガキィン!!

乾いた金属音と共に断ち切れ、弾け飛ぶ鎖。
ギロチンは大きく軌道を逸れ、壁へと突き刺さった。
「狼藉者の正体見たり」
凶刃を繋ぐ鎖を一撃で断ち切り、 ドロシーの眼前に
舞い降りたのは―――準決勝で自ら剣を収めて去って
いった 『東の魔女』、剣術士のかぐやだった。

「なッ・・・!?」
 想定外の闖入者に明らかな狼狽の表情を浮べた女王の隙を、ドロシーは見逃さなかった。
「でやぁぁぁ!」
渾身の力を込めた竜巻脚が女王の腹部をまともに捉え、断ち切れた鎖の破片と共に、
その身体は宝物殿の中へと一直線に突っ込んでいった。

「あ・・・ありが・・・とう」
「なんの。こちらも間に合って良かったでござるよ」
荒い息で礼を言うドロシーに軽い笑みを返すかぐや。
だが直後、ハッとした表情で宝物殿の方へと身体ごと向き直り、剣を構えた。
既にそこには女王の姿は既に無かった。そこに『いた』のは卵のみ。
だが、いつの間にか先ほどの倍はあろうかという大きさにまで膨れ上がった卵は、
鈍い光と共に重く禍々しい胎動を始めていた。
「身を捧げたか、食われたか。どちらにせよ、何か出てくるでござるよ」

胎動は急激に激しさを増し、やがて低い地鳴りの音と共に全身に無数の亀裂が入った。
「あれは・・・!?」
剥がれ落ちる外殻の中から現れたのは、まるで幼女のように愛らしい姿。
だが、全身妖しく輝く瞳は女王そのものだった。
身構えるドロシーとかぐやを一瞥し、ニィッと口元を歪めた『それ』は、
キンキンとした耳障りな響きを持ちながらもどこか甘ったるい声で、こう呟いた。
「コノヨハ ヒドク タイクツダワ」

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