豊かな緑に囲まれ繁栄する西の都、エメラルド・シティ。 交易も盛んなこの都へは二本の大きな道が続いており、 それぞれが『黄色い煉瓦の道(イエローブリックロード)』、『絹の道(シルクロード)』と呼ばれ、 多くの商人や旅人が利用していた。
そして今。『絹の道』を西の都目指してひた進む、旅の一行の姿があった。 全身を白い法衣で包み固めた賢者を中心として、鋭い目つきの少女、三匹の子豚、 そしてちょこまかと落ち着きの無い小猿の使い魔が護衛としてその脇を固めていた。 「だーッ、暴れたんねぇ、ぶっ壊し足んねぇえ!!」 突然物騒な事を喚き散らしながら、小猿のサスケはジタバタと道端を転がり回った。 舞い上がる粉塵を手で軽く払いながら、少女・セイレーンは表情一つ変えずに冷たい声で言い放った。 「猿、アンタうるさいし、邪魔」 「んだとォ、この河童女!だいたいなぁ・・・」 「おやめなさい、二人とも!」 言い争う二人を凛とした声で制したのは、賢者・トリピタカ。法衣で全身を覆っているためその表情はわからないが、その瞳からは強い意志が感じられた。そんなやりとりをよそに、三匹の子豚・トリオ・ザ・ボアーはいつの間にかテキパキと休憩の準備を済ませていた。彼等の煎れる御茶の香りには張り詰めた空気を和らげる抜群の効果があり、一同は矛を収めた。 厚布の敷かれた路傍の石に腰掛けて一息ついたトリピタカは、西の都へと思いを馳せていた。 西の都にあるという魔法書『アーカイヴス』。 この世の全ての英知と歴史の結晶『アーカイヴス』さえあれば、 この大きな災いの波動による世界の綻びの原因は何なのか、謎が解明できるはず。 それこそが旅の目的であったのだ。 「その為には、彼の『真の力』が必要となるのです」 今度は茶菓子の大きさでセイレーンと喧嘩を始めたサスケを見つめながら、 トリピタカは先ほどとは違う、ちょっと悪戯っぽい口調でこう呟いた。 「まぁ、ちょっぴり危険な賭けなんだけど」