獣人族(ライカンスロープ)は、その名の通り獣と人の二つの姿を持つ種族である。 先の魔法大戦では『光の軍勢』に加わり、天使や精霊、そして人間達と共に『闇の軍勢』に立ち向かい、 勇ましくも誇り高い戦いぶりでその勝利に大きく貢献した。
だが・・・皮肉にも彼らの不幸はそこから始まった。 元々少数種族の彼らは、激しい戦いの最中に王を失ったことで完全に統率を失い、 (人間社会に溶け込んだごく一部を除いては)世界の表舞台から瞬く間にその姿を消す事となったのだ。 豊かな生活を取り戻しつつあった人間達にとって、獣人族は忌わしい戦争の記憶を呼び覚ます存在。 また戦争を知らない子供達にとっては、『魔物』に等しい存在であった。
幼い頃から森の中で育ち、行方不明の父親を探すため生まれて初めて広い世界へと踏み出した 獣人族の少女・ブランシェットは、勿論その事を知らなかった。 初めて会う大勢の人間達。だが人々から向けられるのは、冷たく鋭い視線ばかり。 精一杯の笑顔を向けても、表情を強張らせて走り去ってしまう子供達。 (なんでなのニャ?仲良くなりたいのニャ。お友達になりたいのニャ・・・) 言い知れぬ孤独感に苛まれ、身も心も疲れ果てた彼女は、通りがかった森の中で休息を取っていた。 懐かしい草木の匂いは彼女の心を癒してくれた。
とたん、何者かの気配を感じ取った彼女は素早く木陰へと身を潜めた。 そこへ現れたのは一人の少年。また姿を見せると逃げられると思った彼女は、息を殺してその姿を見つめていた。 だが次の瞬間、彼女の目は大きく見開かれた。少年が二言三言呟いたかと思うと、 その身体が眩いばかりの光に包まれ、一瞬にしてドレス姿の少女へと姿を変えたのだ。
その少女が疲れたような顔でドレスを脱ぎ捨て、湖で水浴びを始めるや否や・・・ バシャアア!!大きな水飛沫を上げて、少女めがけてブランシェットは飛びついていた。 「なぁ!?な、なに!?なんなの!?」 「仲間だニャ!やっと見つけたのニャ!!仲間なのニャ!!!」 自分と同じように変身出来るこの少女は、きっと仲間に違いない。 そう思い込んだブランシェットはあまりの嬉しさに無我夢中で少女にしがみついていた。
少女の名はオズマ。実は魔法の剣玉(ビルボケ)の力で変身能力を手に入れた西の都のプリンセスなのだが・・・ ブランシェットはまだその事を知らなかった。