ゴロツキばかりが吹き溜まる、町外れの裏通りにある安酒場。 ロクでもない連中同士のロクでもない会話と下卑た笑いが飛び交う中、 カウンターでは売り出し中のコソ泥一味が隣国で起きた国宝のサークレット盗難事件を肴に酒を酌み交わしていた。
「どうやらまたアイツの仕業みたいじゃねえか」 一味のボスが顎でしゃくった方向には、羊皮紙で作られた手配書が貼りつけられていた。 怪盗ピーター・パン。世界各国を股にかけ、本当に価値のある品物だけを盗み出すという、 神出鬼没かつ大胆不敵な大泥棒。被害にあった各国がその首に懸けた賞金は積もりに積もり、 気付けばその額は歴史上最高額の賞金首である『伝説の強盗団』に迫る勢いとなっていた。
捕まえることが出来たら一生遊んで暮らせるような懸賞金。 コソ泥の自分達に懸けられた賞金額とのあまりの格差に、酒臭い溜息をつきながらボスが呟いた。 「そういや今度は西の都に予告状が届いたらしいな」 『その話は本当か』 不意に背後から声がして、椅子から転げ落ちそうになりながらも一同は振り返った。 そこに立っていたのは、海賊帽を深く被り漆黒のマントを羽織った男。 その左手は鈍い輝きを放つ鉤爪のついたガントレットによって覆われていた。 「て、てて、ててててめぇは・・・」 『答えろ』 冷徹な声で一括され、ゴクリと唾を飲み込んだ後、ボスは搾り出すような声で答えた。 「あ、あぁ・・・間違いねぇ情報だ」 『そうか』 途端、興味を失ったかのように踵を返した男が酒場を出るまで、 コソ泥一味は細かく震えながら、額に滲む脂汗を拭い続けていた。
その男の名はキャプテン・フック。凄腕の賞金稼ぎ(バウンティ・ハンター)であり、 狙われた賞金首はことごとくその鉤爪によって真っ二つに引き裂かれると言う。
「・・・駄目だ」 腰を抜かしたようにへなへなと座り込んだボスが、呆然自失とした表情で呟いた。 「あいつらとじゃ次元が違いすぎる・・・足を洗おう」 全員が無言で頷き、そのままトボトボと酒場を後にするコソ泥一味。 その後の彼らの行方は、ようとして知れない。