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最終章 千夜と一夜の物語

<西の魔女の娘よ>

不意に呼びかけられ、スノウホワイトは慌てて部屋の中に視線を廻らせた。

W.O.OZ(ルビ:ミュンハウゼン)の導きにより遥々やって来た、古びた街の『占いの館』。
窓という窓が厚い布で覆われ、オイルランプの仄暗い灯りが照らし出す小広い部屋。
その中央にあるテーブルには一冊の本が置かれており、その両脇にまるで付き従うかのようにして
二人の女性が座したままスノウをジッと見つめていた。

誉れ高き美女のスノウをして思わず息を呑むほどの美貌の持ち主。
だがまるで鏡合わせの如く瓜二つな顔で無表情かつ無言でスノウを見つめるその様は、
ある種異様な雰囲気を漂わせていた。

<真実を知るべき者 西の魔女の娘よ>

再度の呼びかけを聞き、彼女はふと違和感を感じていた。両脇の女性は先ほどから一切口を開いていない。
だとすると自分に話しかけているのは一体誰か?

<お前には知る権利がある>

途端、テーブルの上の本からゆらりと陽炎のようなものが立ち上った。
揺らめきつつ、崩れながらも徐々に形を取ったその姿は――――両脇の女性よりも更に美しい、
神秘的な女性の顔のようであった。
「貴方がアルハザードね」
スノウの問いかけに陽炎のような「それ」は答えず、代わりに両脇の女性が同時にゆっくりと頷いた。

アルハザード。
『アーカイブス』と『ネクロノミコン』、
そしてその原書である魔道書『アル・アジフ』を記したという、稀代の天才妖術師だ。
だが目の前のその姿は・・・

 「自ら記した魔道書に取り込まれた・・・ってとこかしらね?」

<全てを知る覚悟はあるか?>

答えの代わりに再度の呼びかけを受け、スノウは軽く肩をすくめた。

「勿論よ。そのために貴方に会いに来たのだから」
その言葉を待っていたかのように陽炎は掻き消え、
そして本の分厚い表紙が音も無く開いたかと思うと、羊皮紙で出来たページが勢いよく捲れ始めた。

固唾を呑んで様子を見守るスノウの眼前で本はゆっくりと浮上し、
やがて両脇の女性に支えられるようにして彼女らの手元に落ちていった。
『それは千夜の物語、アルフ・ライラ』

スノウの脳裏に、どこからともなく声が直接響いてきた。
『されど一夜の真実、ワ・ライラ』

スノウがこの後知ることとなる、先の魔法大戦の真実、今回の事件の真相。
それはあまりに残酷で、そして哀しい物語であった・・・。

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