おう、旅の人。キョロキョロしてどうしたい。
ん?あぁ、ムスタファ亭ならここを真っ直ぐ行って、突き当たりを曲がったとこさ。
あんたも噂で聞いてやって来たクチかい。あそこのダンスはそりゃぁもう・・・・
やっぱりあんたも目当ての踊り娘はシムシムかい?まぁもう、ありゃぁ別格だわな。
エキゾチックな顔立ち、ポッテリ厚い唇、豊満で張りのある胸、悩ましい腰つき、スラリと伸びた脚・・・・・
ややや、涎が垂れてたかい。そりゃどうも失礼。
でもまぁ、ホント見るだけにしときなよ。なんたってライバルが多すぎるからね。
こないだも大地主のせがれが拳骨くらいでっかい宝石のついた指輪をプレゼントしたり、なんとか言う国王の
お抱え絵師もやってたお偉い芸術家の先生が肖像画を描いたりして、そりゃもう求婚者が次から次への大賑わいだよ。
だけど本人にてんでその気が無いのか、全てうま〜い具合にはぐらかされちまうらしい。
そんなつれない所も、またこっちにとっちゃぁたまんねぇっつうわけだけどな!くぅーーッ!
・・・・・あ?この辺りで盗賊騒ぎがあったかって?なんだい、ずいぶんやぶから棒に。
そんなの見たことも聞いたことも・・・・・あったわ。そういやあったよ。街の貧乏道場の先生ん家に
泥棒が入ったとか言う話さ。あんな何も無いとこから誰が何を盗むんだっつう笑い話さ。そんくらいだよ。
でもね、本当だったら凄い話だよ。まぁてんで御人好しでちょっと抜けた感じの先生だけど、腕は滅法立つからね。
街の皆がこの目で見たんだよ、暴れ馬を真正面から片手でビタッ!と止めるのをさ。
そんな先生の家から、よしんば箸一本だったとしても何か盗めるなんざぁよっぽどの大盗賊だろうからね。
おう、もう行くのかい旅の人。お目当てのダンスショーはもうちょっと深い時間からだよ。
店の前にはとっくにシムシム目当ての行列が出来てるかも知れねぇけどさ。
おいおいどっち行くんだい、ムスタファ亭はそっちじゃないよ。
・・・・・何だって?先を越された?何の事やらサッパリわかんないけど、行くならまぁ、気をつけてな。
しかしまぁ、あんた随分と軽装だよな。背負い袋一つなんてさ。一体全体、その中には何が入ってるんだい?
・・・・え?相棒が住んでるって?おいおい、つまんない冗談はよしてくれよ。じゃあな。